髄膜腫

当院での取り組み

 当院では、年齢、症状、腫瘍の大きさ、部位、増大速度などによって、患者さんそれぞれに合わせた治療法を選択します。手術を行う場合、様々な術前検査と術中検査(神経モニタリング)、術中ナビゲーションシステム、高解像度手術用顕微鏡、超音波吸引装置、更に術前腫瘍栄養血管塞栓術などを適宜用いて、より安全にそして原則、腫瘍を全て取り除くように取り組んでいます。一方、ガンマナイフ治療医とも密に連携を取っているため、腫瘍と神経や血管との癒着が強い場合などには意図的に腫瘍を残し、放射線治療を組み合わせることによって合併症を極力小さくするよう努めています。

術前頚動脈狭窄所見

手術前

術後所見

手術後

髄膜腫とは

 髄膜腫とは代表的な脳腫瘍の一つで、脳腫瘍全体の20数%を占めます。最近は脳ドックの普及により、無症状でも偶然みつかることも多くなりました。髄膜腫は脳の外側、すなわち頭蓋骨の裏側にある硬膜という膜から発生する腫瘍です。つまり脳そのものから発生する腫瘍ではなく、脳を外側から圧迫するものです。すなわち、脳をほとんど傷つけずに治療できる可能性があります。髄膜腫は多くの場合、組織学的には良性です。これは大きくなるスピードが癌などとはちがって遅いということと、転移しないという意味です。しかし、発生する場所によって治療に難渋することがあります。稀に急速に大きくなるものも存在し、これらは悪性髄膜腫といわれ、転移することもあります。

症状

 腫瘍による脳への圧迫により様々な症状が出ます。腫瘍が大きくなると脳への圧迫が強くなるだけでなく、周囲脳へ浸潤し脳浮腫(脳のむくみ)を引き起こします。これによって圧迫症状が増強されることや、けいれん発作を起こすことがあります。

  1. A)頭蓋内圧亢進症状(脳全体の圧上昇):吐き気、嘔吐、頭痛、意識障害など(特に起床時に強い)
  2. B)発生部位に応じた脳局所症状:視力視野障害、嗅覚障害、眼球運動障害、顔面の知覚障害、顔面神経麻痺、難聴、嚥下障害、言語障害、歩行障害、運動麻痺、感覚障害、けいれん発作、高次脳機能障害、下垂体機能障害など
  3. C)その他:脳主幹動脈への浸潤などによる脳虚血症状、脳脊髄液還流障害による水頭症など

検査方法

  • 頭部CT: CTでは脳の色合いと同じように描出されるため、分かりにくいことがあります。造影剤を使えば通常髄膜腫はよく造影されるので脳とはっきり区別されます。腫瘍内の石灰化の程度、骨の変化(骨肥厚や骨侵食の有無)を同定します。
  • 頭部MRI/MRA:CTより感度が高く特に後頭蓋窩など厚い骨に囲まれている部分の診断力に優れています。造影剤を使うと腫瘍は強く造影されはっきりと描出され、多くは発生部位まで同定できます。
  • 3DCT:造影を用いて腫瘍と血管(動脈、静脈)との立体的な位置関係を把握します。
  • 脳血管撮影(脳血管造影):脳血管と腫瘍との詳細な関係をみるために用いられるカテーテル検査です。腫瘍へ入り込む栄養血管が豊富な場合、摘出術を安全に行うために術前に腫瘍栄養血管塞栓術を追加することがあります。

治療選択

1) 経過観察

小さくて無症状なものについては、原則として経過観察を行います。外来で定期的にMRIなどを行います。脳ドックガイドライン『蝶形骨内側縁以外はMRIで経過観察する。蝶形骨内側型の髄膜腫では視力障害発症後はその回復が困難である為、予防的摘出術が勧められる』に準じて、治療方針を決定致します。

2) 外科的摘出術(開頭腫瘍摘出術)

症状のある場合は外科的摘出術が一般的です。また、無症状でも大きいものや、腫瘍が増大していった場合重篤な症状出現の可能性が高いもの、経過観察中に増大してきたものは外科的摘出術を検討します。腫瘍を全部摘出出来れば治癒を望めます。全てを摘出することが難しい場合、腫瘍体積を減らすことによって症状改善を図ると同時にその後の放射線治療を見越して重要な神経や脳への圧迫を解除します。更に、摘出した腫瘍を病理組織診断することによって増殖能・悪性度などの評価や他の脳腫瘍との鑑別を行い、今後の治療に役立てることができます。

3) 放射線治療(ガンマナイフ治療)

手術以外の治療法として放射線療法があります。開頭術の必要がなく、短期間の治療で済みます。一方で放射線障害によって腫瘍周辺に脳浮腫が出たり、神経障害を合併したりすることがあります。手術が困難な場合、手術で摘出しきれなかった場所、腫瘍の増殖能が高い(悪性度が高い)場合などに行います。稀に治療後に腫瘍が悪性化することがあります。

4) 腫瘍栄養血管塞栓術

髄膜腫の中には血流が豊富で、術中の出血量が多くなることが予想されるものがあります。このような症例に対して本法は、術中の出血量の軽減、手術の安全性の確保を目的として、術前にカテーテルを用いて髄膜腫を栄養する血管を閉塞させるものです。ただし、脳腫脹、腫瘍内出血、脳梗塞、神経障害、頭痛などの危険性もあり、全例で行えるものでもありません。必要性が高いと判断した場合に行います。

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