頭蓋内動脈狭窄症・閉塞症

当院での取り組み

 当院では、数多くの脳バイパス手術(年間約50件)を行っております。バイパス手術を安全に行うための十分な経験と設備を整えております。元気な高齢者へも対応できるように、大学病院の特徴を活かし、術前に十分に全身検査を行います。バイパス手術の取り組み、合併症を予防する取り組みは、毎年国内国外の学会や英文論文で発表しております。

頭蓋内動脈狭窄症・閉塞症とは

 脳に血流を供給する頭の中の大きな動脈がつまってしまうことで、脳に十分な血流を供給できなくなることがあります。こうなると、半身不随や言葉が話せない、理解できないなどといった脳虚血症状(一過性脳虚血発作:一時的な麻痺や言語障害など、脳梗塞)を起こしてしまいます。多くは動脈硬化が原因です。このような患者(脳の血流が著しく低下している場合)は、薬だけの治療(内科的治療)だけでは、2年で20%前後の人が脳梗塞の再発を起こすともいわれております。脳血管の狭い場所により、中大脳動脈狭窄症・閉塞症、内頚動脈狭窄症・閉塞症、脳底動脈/椎骨動脈狭窄症・閉塞症などが挙げられます。

動脈

どんな症状がおこるの?

 一過性脳虚血発作、脳梗塞では脳の部位により症状が大きく異なりますが、手足が動かないといった麻痺、言葉が話せない、理解できないといった失語は、特に大きな問題となり、程度が強い場合には寝たきりになることもあります。他に、視力障害、感覚異常、けいれん、高次機能障害(物忘れ、注意力の低下、目的を持った行動ができない等)などの症状がよくみられ、広範囲な脳梗塞をいきたす場合には、命にかかわることもあります。または小さい脳梗塞を繰り返し、認知症の原因になることもあります。

治療法は?バイパス手術とは?

 程度が軽い場合には、薬の治療(内科治療)のみを行います。程度が軽い方は、お薬だけで脳梗塞の再発を防げる場合も多いです。しかし、程度がひどい場合、脳血流が低下している場合には、お薬だけでは、2年で20%前後の人が脳梗塞の再発を起こすともいわれております。狭窄や閉塞は慢性的に詰まっており、再開通させることはできません。そのかわりに、頭皮の血管(主に、浅側頭動脈)を剥離し、頭の中の脳血管に顕微鏡を用い吻合することにより、脳の血流量を外から増やすバイパス手術を行います。浅側頭動脈中大脳動脈バイパス術(STAMCAバイパス術)といいます。バイパス術で脳の血流を増やすことにより、脳梗塞の再発する危険性を大きく減らすことできます。現在のガイドラインで推奨されている手術適応は、簡単にいうと73歳以下の比較的元気な方で、脳の血流が著しく低下している方です。最近は、平均寿命も延び、高齢な元気な方も増えております。国内、海外でも高齢者に対するバイパス手術で良好な成績を示す報告は増えております。当院でも、全身状態やほかのご病気の有無を確認し、全身状態が良い場合には、高齢者でも、十分な術前検査を行ったうえで、バイパス手術を行っており、良好な成績を出しております。
 また、椎骨動脈や脳底動脈といった後方循環の病変は上記の適応に含まれず、十分なエビデンスがありませんが、内科治療のみでは再発率が高く、特に重篤な脳梗塞をきたすことがわかっております。これらの後方循環の狭窄/閉塞に対するバイパス術を技術的に難しく、成功率を高めるには豊富な経験が必要です。当院では、これらの患者さんに対して十分に精査したうえで、バイパス手術、具体的には、浅側頭動脈上小脳動脈バイパス術(STASCAバイパス術)、後頭動脈後下小脳動脈バイパス術(OAPICAバイパス術)などを行っています。

閉塞した脳血管

閉塞した脳血管

バイパス術で増加した脳血管

バイパス術で増加した脳血管

バイパス術により脳血流が正常化

バイパス術により脳血流が正常化

手術の合併症、過灌流症候群について

 過灌流症候群とは、主な術後合併症の一つです。手術の効果で多くの血流がバイパスから脳へ入ってくれるのは良いことなのですが、急な血流の変化に脳が対応しきれず、一過性神経脱落症状や脳出血を稀に引き起こします。当院では過灌流症候を防ぐために、徹底した術後管理を行っています。例えば術後にはCTに加え、精密検査である脳血流検査(SPECT)を行っています。術中に行っている血流測定などの所見に加え、これらの検査結果を踏まえて血圧管理、鎮静管理などをICUで行い、重篤な脳出血を予防する取り組みを行っています。近年、これらの取り組みにより、後遺症につながる脳出血は稀で、良好な成績をあげております。

PAGE TOP